No.24. どうして動物は、傷口を舐めるのだろう?
動物が怪我をすると、傷口を舐める。
そう言えば、私たちも幼い頃、傷口を無意識に舐めていたことを思い出す。
おそらくこの行為は、動物として本能的なものであろう。
しかし、どうして舐めるのだろうか?
舐めることに何か特別な作用があるのだろうか?
<どうして動物は、傷口を舐めるのだろう?>
じつは、唾液(だえき)には傷口を消毒する成分が含まれている。
例えば、リゾチーム。風邪薬にも含まれているのでご存知の方も多いかと思う?
他にも、ラクトフェリンや免疫グロブリンであるIgA(アイジーエー)などが含まれ、殺菌作用を持っている。
さて、体を構成する細胞は約60兆個、しかし体に付着する細菌数は、およそ100兆個。
体の細胞より細菌の数のほうが多い。
ちなみに、唾液1ミリリットル中の細菌数は、1億から10億個。それに比べ、皮膚の表面には1平方センチあたり1000個と少ない。
もし皮膚に唾液と同じ数の細菌が生息していれば、傷口は化膿するに違いない。
ところが、口の中の傷は化膿しにくい。これこそ、唾液の殺菌作用と考えられるのだ。
ところで、傷口を舐める理由は他にもある。
口の中の傷は、皮膚の傷より数倍治りが早い。
唾液の中には、傷口を早く治す物質も含まれている。
面白い実験がある。
まずネズミの背中を1センチ四方に切る。
そして、ネズミを1匹づつ飼った場合と、数匹を一緒に飼った場合を比べる。
数匹を一緒に飼うと、ネズミはお互いの傷口を舐めあう。
しかし、1匹では自ら背中の傷を舐めることができない。
1匹づつ飼った場合、2日後の傷口は20%しか治っていない。
しかし、互いに舐めあったネズミは、75%も傷口がふさがっていた。
唾液には、傷口を早く治す作用があることがわかる。
<傷口を舐めてもらったネズミは、治りが早い。 これは唾液に含まれる上皮成長促進因子(EGF)の作用である。>
唾液には、もっと他にも面白い作用がある。
たとえば"よく噛むことは、ガンの予防になる"と言われる。
これは唾液中の酵素ペルオキィシダーゼによるものだ。
さまざまな発ガン物質を唾液に30秒間漬ける。
そうすると発ガン作用は、著明に低下する。
よく噛むことで唾液の分泌は盛んになる。
だからよく噛むことがガンの予防になるのだ。
<唾液中のペルオキィシタ-ゼは,発ガン作用を低下させる。 この研究が,噛むことがガンの予防になる根拠となっている。 同志社大学 西岡一先生
>
そう言えば、"よだれの多い赤ちゃんは元気に育つ""唾液の多いお年よりは、丈夫で長生き"と言う言葉がある。唾液が多いことは、体が若いことを意味するのだろう。
ところで一小児歯科医として、子どもの口を診ていて気になることがある。
以前は子どもが口を開けていると、唾液があふれて困ったものだ。
ヌルヌルした唾液の中で治療することは、たいへんであった。
ところが、最近では唾液がたまる子は少ない。
唾液の量が減少しているのだろうか?原因があるとしたら、食生活の変化だろう。
食べ物が軟らかくなり、噛まないこと。
あるいは、水やお茶で流し込む様にして食べるからか?
流し込み食べをすれば、体は唾液を出す必要がない。
そう言えば、軟らかい食べ物と硬い食べ物を与えたネズミでは、唾液腺の大きさに差があるという研究もある。
やはり唾液をたくさん出すためにも、よく噛むことは重要なのだ。
モンゴル健康科学大学 客員教授 岡崎 好秀 先生
(前 岡山大学病院 小児歯科 講師)
子供も楽しめる保健指導情報を 「Dr. 岡崎の口の中探検」にて好評連載中。
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