No.21. スポーツと過労歯?
元福岡ソフトバンクホークス監督の王貞治は選手時代、ホームランを打つとき、激しく歯を食いしばったので歯が悪くなったという話は、あまりにも有名である。
以前、あるノンプロ野球チームの歯科健診を行った。エースの投手と四番打者だけは、歯を診ただけで言い当てることができた。
驚くほどまでに完璧な歯をしていたからである。
少なくとも、プロ選手としての必要条件が歯にはありそうだ。
<スポーツにまつわる歯の話は多い。>
相撲の世界においても、歯が悪いと三段目以上の力士にはなれないと、ある相撲部屋の医者が言っていた。また、小型の力士の方が早く歯を失うそうだ。
どうしてだろうか?
小型の力士は、大型の力士ほど体格に恵まれていない。
だから、大型の力士に打ち勝つためには、体中の筋肉を振り絞って戦う必要がある。
そのために歯を食いしばり過ぎ、だめになると言う。
セリーグの某監督は現役時代、歯は大切な仕事をするうえでの資本となるので、税金の申告の際には、治療費を経費として計上していたという話まである。
プロの選手にとって歯は戦うための武器なのだ。
<日本サッカーは強くなったが、 まだ医科学的なサイド攻撃が苦手だそうである。>
そういえば、リメハンメル冬季オリンピックの選手村でのこと。
選手用の診療所には、内科をはじめ、外科・整形外科・歯科などがあるが、
診察に来た患者さんのうち約半分が歯科を受診した。
そのため長野オリンピックでは、歯科医は他の科の倍にするよう国際オリンピック医事委員会から指示があった。
歯の痛みばかりでなく、競技中は歯に強い力がかかるため、詰め物も外れやすいのだ。
アメリカのオリンピック選手は、30年も前から試合前に歯の噛み合わせを調整していた。噛み合わせを良くすることで、最大限の力を発揮できるからだ。
短距離走のカール・ルイス選手も、ソウルオリンピックの時、歯の矯正装置を装着して出場していた。100メートル走で10秒の壁を破るために、矯正していたのだ。
<オリンピックも歯にまつわる記事が多い。>
シアトル・マリナーズのイチロー選手は、スポーツマンらしいすがすがしい笑顔のおかげで、1994年度に、ザ ベスト スマイル オブ ザ イヤー賞を受賞している。
その時のインタビューでイチロー選手は、お風呂に入る回数と同じであり、朝1度、練習後のシャワーで1度、寮に帰って1度、夕食後1度、晩の練習後1度、歯を磨くと述べている。1日に5回も歯を磨いていたのだ。
イチロー選手が、アメリカ大リーグで成功している背景には、一流のプレーヤになるために考えられることは何でも実践していることにあるだろう。
さて、歯と運動は、プロスポーツに限ったことではない。一般人にも言えることだ。
中学生を対象に運動能力テスト・体力テストと歯の関係について調べたことがある。
ほとんどの歯の良い中学生は、ほとんどのスポーツテストにおいて優っていることが証明された。
歯の良い中学生は、悪い者に比べ、握力は3キロ・背筋力では13キロも優っていた。
歯を食いしばることで力を発揮できることがわかる。
さらに、ハンドボール投げでは2メートル、走り幅跳びでは30センチメートル、50メートル走においても0.3秒早く走っていた。
歯と運動は、切っても切れない関係であることがわかる。
<中学生の歯と運動能力。中学生における歯の状態と運動能力・体力テスト。 ほとんどの種目で歯が良い中学生は,運動テストに優れていた。>
ところで、冒頭で紹介した王選手や力士の例で、仕事をしすぎて歯を悪くすることを何と呼ぶかご存知だろうか?
これこそ過労歯(かろうし)だ。
過労歯を予防するためにも、日頃からの歯のケアが必要なのだ。
<歯を食いしばりすぎて歯をダメにすることも過労歯(かろうし)だ。>
モンゴル健康科学大学 客員教授 岡崎 好秀 先生
(前 岡山大学病院 小児歯科 講師)
子供も楽しめる保健指導情報を 「Dr. 岡崎の口の中探検」にて好評連載中。
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