No.7. それは一本の歯から始まった
はるか2億3000万年前から6500万年前まで,
恐竜が地球上を謳歌していた時代があった。
それはヒトに比べ遙かに長い歴史を持っている。
恐竜の存在は,我々をいにしえの世界に誘ってくれる。
ところでさまざまな種類の恐竜達は,何を食べていたのであろうか?
肉食と草食恐竜の最も簡単な見分け方,それは"歯"である。
肉食恐竜の鋭く尖った歯,それは闘争の武器であると同時に
肉を食いちぎり骨までかみ砕いていた。
一方草食恐竜は,目の粗いヤスリ状の歯によって
固い植物く茎や葉をすりつぶして食べていた。
さて恐竜についての研究は比較的新しい。
最初に発見された恐竜の体の部位は,どこかご存知か?
1822年,イギリスにマンテルと呼ばれる医者がいた。
往診の途中で,道路工事のために積まれた土の中に
一つの黒光りする石を発見した。
それは見たこともない歯の化石であった。
いったいどんな動物のものだろう。
当時は,世界に冠たる大英帝国の時代,世界中の
"知"が結集されていた。
しかし世界最高の科学力を持っていても,
これは何の歯であるかわからなかった。
サカナでもない,動物のサイでもない
ある日,南米のイグアナの研究家,スタッチベリィーがこれを見て,
爬虫類のイグアナの歯そっくりであることを指摘した。
そこでこの歯の持ち主の恐竜を"イグアノドン"と名づけた。
イグアノドンとは,"イグアナの歯"(odont=歯)を意味している。
この歯がきっかけとなって,多くの恐竜が次々と発見された。
世界の恐竜の研究は,このたった1本の歯から始まったのである。
ところで歯が最初に発見されたのは,恐竜ばかりでない。
ジャワ原人,北京原人も歯の発見が契機となっている。
現在,知られている人類の最古の直系の祖先である
"ラミダス猿人"(440万年前)も同様だ。
歯が発見された付近を捜すと骨の化石が見つかるのだ。
さてそれでは,どうして歯が最初に発見されやすいのだろう。
歯の表面を覆っているエナメル質は体中でもっとも硬い。
だから化石として残りやすいのだ。
でも化石として残るためには,条件がある。
当たり前のことではあるが,むし歯がないことだ。
さて小・中学校に通っていた頃を思い出していただきたい。
歯の検診で毎年のようにむし歯を指摘された同級生がいたと思う。
ところが成人してからは,どうだろうか?
以前の様に,短期間に多くの歯がむし歯になることはない。
どうしてだろう?
実は歯は,はえた直後にむし歯になりやすい。
はえたての歯は,目で見たら硬そうに見える。
しかし完全に硬くなってはえてくるわけではない。
たとえば流したてのコンクリートがあったとしよう。
目で見た限りでは,軟らかいか硬いかはわからない。
しかし足で踏むと,穴があいてしまう。
歯もこれと同じ軟らかいのだ。
歯が硬くなるのは3年かかる。
逆に考えれば,はえてから3年むし歯にしないと,
以後にむし歯で悩まされる確率は減ってくる。
むし歯予防は,歯のはえた直後が勝負なのだ。
モンゴル健康科学大学 客員教授 岡崎 好秀 先生
(前 岡山大学病院 小児歯科 講師)
子供も楽しめる保健指導情報を 「Dr. 岡崎の口の中探検」にて好評連載中。
- No.27."噛む健康法"フレッチャーイズム
- No.26.ミュータンス菌、40分間に1回分裂したならば・・・。
- No.25.喫煙と歯周疾患
- No.24.どうして動物は、傷口を舐めるのだろう?
- No.23.牛タンが美味しいわけ
- No.22.震災に学ぶ歯の話
- No.21.スポーツと過労歯?
- No.20.むし歯の季節?
- No.19.養生訓に学ぶ歯の話
- No.18.鳥のクチバシ考
- No.17.むし歯菌のウンチ???
- No.16.左ヒラメに右カレイ
- No.15.あるサルの死因
- No.14.乳歯こそ親の歯
- No.13.雛人形に見る食生活の変化
- No.12.ダラダラ食いと耐える心の発達
- No.11.入れ歯を入れたロバの話
- No.10.宇宙で歯磨きをすると・・・?
- No.9.宇宙飛行士と歯の話
- No.8.恐竜は胃に石を持っていた?
- No.7.それは一本の歯から始まった
- No.6.食中毒の予防は噛むことから
- No.5.競馬馬にまつわる歯のヒミツ
- No.4.どうして人の歯は一度しか生えかわらないのだろう
- No.3.人相学から歯を考える
- No.2.モンゴルの食生活と歯の健康
- No.1.ナホトカ号沈没事故と口の中の汚れ