No.4. どうして人の歯は一度しか生えかわらないのだろう
ヒトは永久歯が抜けると二度と萌えることはない。
何度も萌えてくれば,歯科医院へ通わなくてすむのに・・。
そんな思いをしながら,これを見ている方もおられるだろう。
一方,歯が何度も萌えてくる動物もいる。たとえばサメ。歯が抜けても次々と萌えてくる。
たった1ヶ月で、すべて萌え代わるとさえ言われている。
ヒトにとっては,うらやましい限りである。
でも本当にそうだろうか?
ヒトは,単細胞動物から魚類へ,そして両生類から爬虫類の時代を経て進化してきた。
この間、45億年。この時の流れが,ヒトの体に刻まれている。
その過程のなかで,必然性があったからこそ,萌えかわらない歯が誕生したのではないだろうか。
さて「サメが漁船を襲い、そこにはサメの歯が刺さって残っていた。」といった記事を見たことはないだろうか?
そう!
サメの歯は,抜けやすい歯なのだ。この理由は,簡単だ。サメの歯は,歯の根がない。
これがヒトの歯との大きな違いだ。ちなみに進化の過程で爬虫類までの動物には,歯の根が存在しない。
歯の根は,木の根と同じ。なければ台風で倒れてしまう。抜けてもまた萌えてくるのから・・,
という疑問の答えには,まだ至っていない。
さてご飯の中に砂粒が入っており,間違って噛んでしまったら顎はどうなるだろう?
とっさに口が開く。一定以上の力がかかると歯が壊れてしまう。これは歯に対する防衛作用である。
この役割をするのが,歯のクッション役の歯根膜。歯根膜には,もっと他にも働きがある。
お寿司屋でマグロとタコを注文したとしよう。顎の動かし方はどう違うだろう?
マグロは簡単に咬み切れる。ところがタコは咬み切れない。
歯ごたえのある食べ物は,歯を微妙にずらして咬み切ろうとする。
そう!ヒトは食べ物に合わせて,顎の動かせ方を変化させて食べることができるのだ。
サメとヒトの歯には、もっと大きな違いがある。サメの歯は,尖った歯ばかりである。
ところがヒトには、3種類の歯がある。
食べ物を咬み切る前歯,ひきちぎる犬歯,そして奥歯で咀嚼して飲み込む。一方,サメはどうだろう?
サメは,食べ物に食らいつき,丸飲みするだけだ。これでは歯ざわり,舌ざわりも楽しめない。
サメにとって歯とは,手に代わって獲物を捕らえる道具なのだ。
無理に噛むと歯が抜けてしまう。
ヒトでは,歯が抜けないように,歯の周りを囲む歯槽骨(しそうこつ)がある。
歯と歯槽骨の関係は、電球とソケットの関係と同じだ。
ソケットの役割をする歯槽骨のおかげで,歯が抜けないことがわかる。
さて歯周病。これは歯垢や歯石によって歯槽骨が溶かされ,歯が動きだす歯グキの病気。
言いかえれば,ヒトの歯がサメの歯へと退化する病気なのだ。ヒトの歯は一度しか萌え代わらない。
しかし,大切にあつかえば,一生保つようにできているのだ。
モンゴル健康科学大学 客員教授 岡崎 好秀 先生
(前 岡山大学病院 小児歯科 講師)
子供も楽しめる保健指導情報を 「Dr. 岡崎の口の中探検」にて好評連載中。
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